ペルシア語のことわざ・慣用句(3)
熊おばちゃんの友情
「دوستی خاله خرسه」
(Dūsti-ye khāle kherse.)
良かれと思ってやったことが、相手にとっては迷惑なことだった!
ありますねえ~、こういうこと。。。
「情けも過ぐれば仇となる」
と日本の先人は言いましたが、ペルシア語でもこんな慣用句があります。
「دوستی خاله خرسه」(Dūsti-ye khāle kherse.)
=熊おばちゃんの友情
この言葉は、古代にペルシア人がインドから持ち帰り、『カリーラとディムナ』の基となった寓話集『パンチャタントラ』に編まれた物語に由来します。
※モウラーナー(ジャラールッディーン・ルーミー)も、近似の物語を『マスナヴィー』で語っていますが、13世紀の礼儀と道徳について書かれた文献より引用したとされています。
ある裕福な老父が、都会に独りぼっちで住んでいました。
彼は経済的に恵まれていましたが、友達が一人もいませんでした。
そのため彼は時々森を訪れ、孤独を紛らわしていたのでした。
ある日、いつものように森で散歩をしていた老父は、一匹の年老いた熊を見かけました。
その熊が独りぼっちで淋しそうに座っているのを見て、自分のことのように感じました。
そして、似た者同士の老父と熊の間に、友情が芽生えました。
それからというもの、老父は朝起きると、熊に会いたい一心で森へと向かうのでした。
彼らの友情は日に日に深まり、お互いに友がいる喜びを味わっていました。
その日も老父は熊と会い、共に語り合っていました。
老父は、少し疲れたので休もうと木にもたれかかりましたが、目を閉じた途端、スヤスヤと寝入ってしまいました。
熊は老父の横に座り、彼の眠りを妨げないよう、見守ることにしました。
そうするうち、一匹の蝿が老父の顔に留まりました。
熊はその蝿を追い払うのですが、ブンブンと唸り、何度も老父の顔の上に舞い戻ってきます。
あまりの蝿のしつこさに、熊はイライラし始めました。
そして、この憎き蝿を完全に追い払うにはどうしたら良いか、しばらく考えあぐねました。
ついに熊は、その蝿を叩きつぶすことを思いつきました。
近くにあった大きな石を持ち上げ、ソロリソロリと蝿へ近づくと、その石を思い切り振り落としました。
熊は、蝿がペチャンコになったことに喜々としました。
しかしすぐさま、自らの間違いに気が付き、ひとりの友人を失くしたことにひどく嘆き悲しみました・・・。
この短い物語に絡めて、こんな諺もよく引用されます。
「دشمن دانا به ز دوست نادان」(Doshman-e dānā beh ze dūst-e nādān.)=賢い敵は無知な友に勝る
または
「دوست نادان بر دشمن دانا مگزین」(Dūst-e nādān bar doshman-e dānā magozin.)
=無知な友をもつくるくらいなら知のある敵を選べ
(上記2つの諺の訳:山田 稔『ペルシア語 口語辞典』より)
しかし、なぜ「熊おばちゃん」なのか。
古代よりペルシア文学には、母方のおばちゃんは悩みごとを聞いてくれる相談役として、よく登場してきました。そのため、「おばちゃん」は信頼できる味方、のはずです。
ところが熊などの猛獣は、時に気を荒立てて飼い主をも襲ってしまうという性質があり、「恩を仇で返す人=恩知らずな人」というイメージにもなります。
冒頭の慣用句は、相手の行動が「親切が過ぎてお節介」と思う時、または相手を信頼していたはずなのに裏切られたり、損失をこうむった時などに使われています。
今日も良い一日を!
(この記事は、旧Kimiyaのサイトにて2022.8.11に書かれたものです)